酵母とは
酵母と酒造り
酵母は酒造りに不可欠な微生物です。地球上に《酵母》が存在しなければ、酒というものはなかったと言っても良いくらいです。これは焼酎だけでなく、すべての酒類にいえることです。例えば、ワインの場合、ブドウの果皮にいる酵母の存在が不可欠で、ブドウ果汁の中でこの酵母が増殖し、アルコールができてワインとなります。
ワインは、遺跡の検証などから、少なくとも今から七千年以上前には造られていたと考えられています。ブドウを貯蔵しようとした時、自然の摂理でワインがつくられたのが人類ではじめてのお酒と考えられています。人類は酵母の存在を知らなかった時代から、《酵母》という微生物のアルコール生産能力を利用して焼酎、清酒、ビール、ワイン等を製造してきました。
酵母の作用
上の写真は、酵母の姿を電子顕微鏡で捉えた写真です。酵母の形は卵のような楕円形、もしくは円形をしています。表面に見える輪は、酵母が分裂したときに見られる出芽痕と呼ばれるものです。酵母の大きさは、一般に5~10マイクロメートル(=1ミリメートルの千分の一)です。したがって、肉眼で酵母の姿を捉えることはできません。重さは百億個の酵母が集まって、やっと1グラムというくらい小さなものです。
酵母は、糖を食べてアルコールと炭酸ガスに分解する、アルコール発酵を行います。酒造りは、このアルコール発酵を利用しています。アルコール発酵は、酒を造るだけでなくパン製造でも利用されています。パン作りに使用される酵母は酒造りに使用される酵母とは異なる種類ですが、やはりアルコールと炭酸ガスを作ります。もっとも、パンの場合は焼き上げられるので、アルコールは残りません。
大麦から焼酎ができるまで
酒造りにおける酵母の役割は、もちろんアルコールを作ることです。原料がブドウのように糖分(ブドウ糖)を含んでいる場合は、アルコール発酵によって酵母が糖を分解し、アルコールをつくります。
大麦のような穀物には、糖ではなくデンプンが含まれていますが、酵母はデンプンをそのまま食べることができないため、デンプンをいったん糖に分解する必要があります。焼酎造りの場合、その役割を担うのが麹菌です。清酒や焼酎の製造で使用される麹菌は、デンプンを分解する酵素を作ることができます。これが大麦等の穀物デンプンに作用して、糖にまで分解します。酵母はその糖を食べて、アルコールを作るわけです。
また、原料のタンパク質も麹菌によってアミノ酸に分解され、酵母によって酒類の香り成分になります。また、酵母はアミノ酸を貯め込みますので、ビール酵母のように健康食品として評価されるものもあります。
私たちの生活を支える酵母
昔は、自然に繁殖した酵母で醸造を行っていました。それが、醸造を繰り返すことでそれぞれの醸造環境に適した酵母が生き残り、人為的に選択・分離されてきました。
現在では、酒類醸造用の酵母として清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母そして焼酎酵母が使われていますが、これらの酵母の学術的分類は、サッカロミセス属という同じ仲間です。
焼酎もろみには、クエン酸が多く含まれます(これが発酵大麦エキスの酸味の主成分)。このクエン酸は、白麹菌が生産した発酵クエン酸です。焼酎酵母はクエン酸が作り出した酸性状態でも活動していくことが求められます。また、糖からアルコールを作る能力が高いものが自然に選別されてきました。今では、良い香りを作る酵母や良質な発酵大麦エキスを作ることができる酵母等が自然界から見つけられ、使われております。
微生物は、われわれ人間の目に見えません。しかし、その働きは目を見張るものがあります。「人類の歴史にもしお酒がなければ、」という設問の答さえ見出すことはできません。そして、発酵大麦エキスもこの世に現れることはありませんでした。