発酵とは
発酵の定義
微生物が食品にもたらす作用には、発酵と腐敗があります。この2つの違いは何でしょうか。
辞書によると、発酵とは「酵母や細菌などの微生物がエネルギーを得るために有機化合物を分解して、アルコール類・有機酸類・二酸化炭素などを生成していく過程」とあります。一方、腐敗は「有機物質が微生物の作用によって分解され、悪臭を放つようになったり有毒物質を生じたりすること」とあります。
つまり、同一の微生物がもたらす作用であっても、われわれ人間にとって、役に立つ場合には発酵と表現され、有害になる場合には腐敗と表現されます。
焼酎の作り方
焼酎造りにおける発酵のタイミングは、一次仕込(酒母を作る工程)と二次仕込(もろみを作る工程)の2回あります。
一次仕込とは、麹に水を加え、酵母を混ぜて、約5日間ほど発酵させる工程のことです。一次仕込の最も重要な目的のひとつが、純粋な焼酎酵母を増やすことであるため、一次仕込でできた発酵物(もろみ)のことは、特別に酒母とも言います。
麹菌が作ったクエン酸は、雑菌の繁殖を抑える働きがあります。また、麹菌の酵素の働きで大麦のデンプンはブドウ糖に分解され、これを食べて酵母は増えていきます。仕込から二日ほど経つと、酵母が増え、発酵が盛んになります。このとき、もろみの温度が上がるので、上がり過ぎないように水で冷やしたり、あるいは櫂(かい)と呼ばれる道具を使って温度を下げます。こうして酵母の活動をうまくコントロールしながら、一週間ほど発酵させます。このとき、もろみ1㏄あたり約2億の酵母が存在します。
二次仕込とは、酒母に水と主原料を加えることをいい、主発酵ともいわれます。この主原料の違いによって、大麦焼酎、芋焼酎、米焼酎などに分けられます。
二次仕込でも麹菌の酵素と酵母が働いて、アルコールが作られると同時にペプチドやアミノ酸、ポリフェノールなど身体に良い成分もどんどんもろみに蓄積されます。焼酎のもろみでは糖化(酵素分解)と発酵が同時に進行するので、並行複発酵と呼ばれています。二次発酵は通常10日間ほど行われ、そのときのアルコール濃度は20%近くに達する場合もあります。
アルコール発酵には3つの種類があります。
- 単行発酵(単発酵)
単行発酵(単発酵)の代表的な酒類にワインがあります。ワインはぶどう果汁に酵母を添加して、アルコール発酵します。つまり、糖化工程が必要ないアルコール発酵方法です。
- 単行複発酵
単行複発酵はビールのように、でんぷん質を麦芽の糖化酵素によって糖化した後、酵母を加えて、発酵させる方法です。糖化と発酵を分けて行なう発酵形式なので「糖化後発酵」ともいわれます。- 並行複発酵
並行複発酵は本格焼酎や清酒のように、仕込みタンクのなかで糖化と発酵を同時に行なう発酵形式のことをいいます。麹菌の酵素で分解・生成された糖が酵母によって消費され、アルコールに変わります。一般に、20%程度の高濃度アルコールを生成するためには、その分高濃度の糖液を用意する必要があります。しかし、糖液の濃度が高いほど粘り気も強くなるため、酵母は活動しにくくなり、結果として高濃度のアルコールを生成することができなくなります。並行複発酵では、糖は麹によって補給され続けるため、はじめから高濃度の糖液を用意することなく、高濃度のアルコールを生成することができます。
発酵が作り出すもの
酵母は発酵中にいろいろな成分を作り出します。
酵母が作る成分のうち、吟醸香と呼ばれる果物のような香りがする成分として知られる酢酸エステル類は、非常に微量であるにもかかわらず、焼酎の香りや味に影響を与えます。また、やはり果実香を持つ成分である高級アルコール類(1つの分子中に炭素Cを6個以上持つもの)も作られています。
酵母は原料によって作り出す成分量が異なり、これがそれぞれの焼酎の特徴になっています。
発酵工程では、大麦からアミノ酸やオリゴ糖が作り出されます。特に、大麦のアミノ酸は麹菌が作るプロテアーゼによって分解され、一部は酵母によって消費されます。しかし、大麦に由来するアミノ酸の多くはもろみ中に存在し、これが発酵大麦エキスに含まれるアミノ酸となります。
発酵大麦には脂肪肝等の肝障害を防御する成分が含まれております。この成分は特定されていませんが、発酵という工程を経ることにより生成した成分である可能性があります。
人類は昔から発酵をうまく生活に取り入れて、応用してきました。そして、さらに研究が進み、発酵大麦エキスが発見されました。私たち研究者は、発酵のことをわかった気になっているだけで、実は奥深いものだと、改めて感じさせられる今日この頃です。