古代の日本人はベッド派?寝具の歴史(前編)
皆さんは眠るとき、どのような寝具を使っていますか?
現在の日本ではベッドを使う人が増えましたが、昭和の家は畳敷きの和室が主流でしたので、和室に布団を敷いて寝る人が多く、ベッドを使っているのは少数派だったはず。主に江戸時代を舞台にした時代劇や、平安時代の宮中を描いた絵などにもベッドのような家具は見当たりませんので、日本では昔からベッドではなく床に布団を敷いて寝ていたような気がしてしまいますが、実はもっともっと昔には、日本人もベッドを使って寝ていました。
今回は良い「眠り」のための重要な道具である「寝具」について、古代から室町時代までの歴史を解説します。
古代日本の寝床
超古代の日本人の住居と言えば「竪穴式住居」です。竪穴式住居は、地面を浅く平らに掘って屋根を載せた住居で、周りの地面より1段低くなっているのが特徴です。
発掘された遺跡を調べると、住居内の一部を掘り残して高くしてある部分があり、この部分にゴザのようなものや毛皮を敷いて寝ていたと考えられるそうです。床より一段高い寝るためのスペースと言えば、これはもう古代のベッドと言ってしまって差し支えないでしょう。
時代はずっと進みますが、古代のベッドとして有名なのが、正倉院に収められている聖武天皇(701~756)とその皇后が利用したとされる、御床(ごしょう)というものです。檜でできていて、大きなすのこに4脚の脚が付いたような形をしていて、この上に「御床畳」という畳を載せ、その上に寝ていたようです。
貴族の調度は豪華に
平安時代になると、このような脚付きベッドの記録はなくなり、寝所として使われる「帳台(ちょうだい)」と呼ばれる大型の調度が登場します。部屋の中にあって、4面を布(帳/とばりと言います)で覆った小さな部屋のようなもので、中には畳が置かれ、その上で寝ていました。
この帳台を使えるのは貴族のなかでも一部の非常に位の高い人のみで、普通(と言っても上流階級の人ですが)は畳のみを置いて寝床としていました。畳の上には「褥(しとね)」と呼ばれる薄い布団のようなものが敷かれていましたが、基本的には畳が敷き布団の代わりだったと考えてよいでしょう。
一方で、掛け布団にあたるものは「衾(ふすま)」と呼ばれていました。衾は裳(も/下半身に付ける衣服の一種)が語源になっているそうで、元々は着ていたものを掛けて寝ていたことが伺えます。
衾には、現在の布団のような長方形のもの以外にも、現在のかいまき布団のような着物の形をしているものもありました。この時代には羽毛も木綿もありませんので、絹で作られる真綿を入れていたものと考えられます。
と言っても、畳も衾も超高級品。とても身分の高い人しか使うことはできませんでした。貴族の家に住んではいても、貴族やその家族でない従者などは板敷の床で、着ている物を脱いで掛け、そのまま寝ていました。このころの庶民の家はまだ竪穴式住居が殆どだったので、土間の家にゴザやむしろなどを敷き、やはり着ている物を脱いで掛けて寝ていたものと考えられます。
武士の世の中
時代が下って鎌倉時代になると、武士の世の中になります。武士は平安時代で言えば貴族の家に遣える従者のようなもので、平安時代なら板敷の床にそのまま寝る暮しをしていた人々ですが、権力を得るにつれて生活スタイルも変化し、一部の富裕層の貴族しか利用できなかった畳を敷いて眠るようになりました。また、平安時代には寝たり座ったりするための敷物であり、必要なとき、必要な場所に動かして使うものだった畳を、部屋に固定して使うようになってきたのもこのころです。
室町時代になると、床一面に畳が敷かれた総畳の部屋が登場します。この建築様式は、その他の様々な要素と合わせて有名な「書院造」と呼ばれるもの。現在の住宅の和室は、この書院造が元になっています。
ただ、この時代でも専用の掛け布団はなく、やはり着ていたものを掛けて寝るスタイルが主流でした。
近畿地方を中心にして庶民の家も改良されていき、板敷の部屋が作られるようになり、板敷の部屋で寝るスタイルも生まれましたが、もちろん庶民には畳はまだまだ高級品です。家の作りは変わりましたが、寝具はやはりゴザやむしろの時代が続きます。
最近ではベッドでの生活にすっかり慣れてしまい、畳の和室に布団を敷いて寝ると腰や肩が痛くなる…という人までいるようですが、昔は貴族でも布団すらなく畳に寝ていたと知って驚く人も多いのではないでしょうか。庶民であればその畳すらなく、土間にゴザ敷きで掛けるものなし、となれば、昔の人はずいぶん体が強かったんだと感心してしまいますね。
昔の人が畳を敷き布団として着物を掛けて寝ていたことはわかりましたが、では現在私たちが使うような、ふかふかの布団はいつ生まれたのでしょうか。次回は戦国時代以降の寝具について解説します。
眠りについては、こちらもおすすめ
質の良い眠りのために
睡眠サイクルを理解し、理想的な眠りを!!
睡眠の「質」と脳の発達
発酵大麦エキス情報ポータルサイト事務局では、月に1回当サイトの更新情報をメールマガジン形式でお送りしています。メールマガジンのご登録は以下のバナーをクリックしてください。