布団の発展は戦乱のおかげ?寝具の歴史(後編)



今でこそベッド派・布団派が半々ほどになっていますが、日本で寝床と言えば「畳敷きの和室に敷き布団と掛け布団」のスタイルというイメージが強くあります。このスタイルが確立した経緯として、前回の記事では古代~室町時代までの寝具の歴史を解説しました。貴族や身分の高い僧侶や武士の場合は畳の上で着物を掛けて、庶民の場合はゴザやむしろの上でやはり着物を掛けて寝るのが一般的でしたね。

畳と言っても現在とは作りが異なるので、今私たちが目にしているものよりも柔らかい物であったと考えられますが、それでも畳のみでは背中が痛そうですし、庶民が使うゴザ・むしろに至っては「床に直接寝ないのでヒヤッとしない」以上の機能があるとは思えません。もっと暖かく、柔らかい寝具はいつ頃に登場するのでしょうか。

 

布団の詰め物と言えば…

子供の頃は和室に布団を敷いて寝ていた、という経験がある方は思い出してください。布団の上げ下ろしをする際、布団が重くて大変だったという記憶はないでしょうか。現在では、布団の中身はポリエステル綿や羊毛、羽毛が中心ですが、昔の「重い布団」の中身は木綿のワタでできているのが普通でした。

37876142 - cotton plant.古代から室町時代まで、木綿ワタが入っている寝具が出てこないのは、昔の日本では木綿が栽培されていなかったからです。木綿が日本に初めてもたらされたのは8世紀終わりの799年、平安京への遷都(794年)の5年後ですので、平安時代初期ですが、栽培がうまくいかなかったようで、そのときは日本には定着しませんでした。平安時代の寝具で紹介した衾(薄い掛け布団のようなもの)にはワタが入っている物もあったようですが、この「ワタ」も生糸(絹の原料)でできたもので、木綿ではありませんでした。

 

はじめは軍需品として、そしてついに布団にも

木綿の栽培が広がったのは15世紀の終わり以降、戦国~安土桃山時代です。

戦国時代には兵の衣類や軍旗・陣幕用の布、火縄銃の導火線用に、繊維が大量に必要になりました。この時代まで、日本で使われる繊維と言えば、高級品の絹と庶民が使う麻が殆どでした。絹は大量に作ることはできませんし、麻は安価で栽培も容易であったものの加工に手間がかかるため、やはり大量に用意することはできなかったはずです。その点、木綿は栽培さえできれば加工の手間が小さく、染色も容易で、軍需用としてぴったりの繊維でした。

これによって木綿の栽培が推奨され、全国に広がっていきました。

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戦国の世が終わりに近づき、軍需品としての需要が小さくなると、木綿は生活用の繊維として使われ出しました。

現在も残る資料に「夜着(よぎ)」という言葉が登場したのは桃山時代。この夜着は襟や袖がついた着物のような形をしていて、中には木綿ワタが入った、現在のかい巻き布団のようなものです。また、「布団」という言葉も見られるようになり、敷き布団が登場したこともわかっています。

栽培が全国に普及したとはいえ、木綿はまだまだ高級品であったようで、布団や夜着は、はじめは関西の富裕層・上流階級を中心に利用されていたようです。

 

江戸時代の布団

江戸時代に入ると、布団(敷き布団)と夜着という寝具が関東にも伝わってきたようで、江戸でも上流階級を中心に使われだしました。関西では、江戸初期には袖・襟がないタイプの夜着が使われ始めましたが、関東では袖・襟付きのまま普及・定着したそうです。

江戸時代においても木綿が高級品であることに変わりはなく、たっぷりと木綿ワタを入れた布団・夜着を使えるのは一部の富裕層や上流階級に限られました。布団1枚の価格は、現在の価値にで計算すると数百万程度にもなるそうで、掛け・敷き合わせて1人2枚ずつ、家族の分を用意することは、庶民にはとてもできませんでした。

江戸の町民などの中流階級では、廉価版として木綿ワタを少しだけ入れたペラペラの薄い布団を使うこともあったようですが、これでも高価なことには変わりないようで、国民の大部分を占める農民の多くは相変わらずゴザやむしろで寝ていました。

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また、寒い時期には紙衾、つまり紙のふとん(中身はワラなど)が使われることもあったようです。当時の紙は和紙ですので、今の紙よりは柔らかそうですが、やはり木綿ワタを詰めた木綿地の布団のほうが随分寝心地が良かったことでしょう。

 

庶民への布団の普及は貿易とともに

庶民に木綿ワタの布団が普及し始めたのは明治時代になってから。外国から安い木綿が輸入されるようになり、やっと庶民にも手が届く品になってきました。

大部分が農民である庶民は、寝具のゴザやむしろを自宅で編んでいましたので、寝具は自宅で仕立てるものという意識があったことでしょう。また、布団はもともと庶民向けの商品ではありませんでしたので、布団を売る店もなく、布団は長く戦前まで、わたを購入して自宅で作る物でした。

 

ベッドでの生活スタイルが定着し、軽くて暖かい羽毛ふとんも普及した今、重い木綿ワタの布団は敬遠されることすらあるほどですが、日本人の寝心地を劇的に改善したと思われる画期的な寝具であり、自身の権勢を示すもの、憧れの対象であったことがわかります。今後もより快適な眠りを求め、寝具の改善が進んでいくことでしょう。今から20年後、30年後にはどんな寝具が登場しているか、楽しみになりますね。

 

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