悪玉「活性酸素」の意外な役割



活性酸素と聞いて皆さんが思い浮かべるイメージはどのようなものでしょうか。

活性酸素は、私たちが呼吸で取り入れる酸素が反応性の高い物質に変化した化合物で、一般的に4種類あるとされています。様々なものを酸化させる力が強く、体を「錆び」させる物質として紹介されることが多いので、できればあってほしくないもの、という認識の方が多いでしょう。

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活性酸素の有用性

活性酸素が細胞にダメージを与えていろいろな好ましくない状態を作るのはその通りですが、役立っていることもあります。

病気の原因となる細菌が体内に侵入すると、体内では白血球が病原菌を攻撃して病気の発生を抑えます。この際、はじめに白血球は細菌を捕獲してその中に取り込みますが、白血球の中で実際に細菌を破壊しているのは活性酸素(とその反応物)です。体内にある活性酸素のほとんどは、様々な反応の結果「できてしまった」ものですが、白血球は活性酸素をわざわざ作り出して免疫反応の一部として利用しています。

また、主にがん治療に取り入れられている放射線療法でも、活性酸素が活躍しています。放射線療法では、がん細胞(とその周辺の正常な細胞)に弱い放射線を照射し、細胞内のDNAを傷つけます。正常な細胞であれば、弱い放射線による小さな損傷は修復されますが、再生能力に劣るがん細胞は再生できず、がんが増殖できなくなる仕組みです。この際、放射線の照射によって細胞内の酸素が活性化しており(=活性酸素が発生)DNAを傷つける力がさらに高まっています。

限定的ではあるものの、活性酸素が役立つ場面もいくつかあります。 そして、最近の研究によって、妊娠高血圧症候群に対する活性酸素の新たな可能性が示唆されました。

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妊娠高血圧症候群における効果

妊娠中期以降の3~5%の割合で発生する妊娠高血圧症候群。その名の通り、妊娠中に高血圧になるものですが、生活習慣病の高血圧症と違って原因はよくわかっていません。母体には血管障害、臓器障害などの障害をもたらし、胎児の発育も妨げ、重症化した場合は母子ともに命にかかわる事態になることもあります。

これまで、活性酸素などがもたらす酸化ストレスが妊娠高血圧症候群の原因の一つと考えられてきましたが、この度、東北大学の祢津昌広助教らの研究により、この酸化ストレスに、妊娠高血圧症候群の病態を改善させる効果があることが発見されました。

妊娠高血圧症候群における「酸化ストレス」の意外な役割 〜酸化ストレスが病態を改善する〜(PDF)

 

妊娠高血圧症候群の母体の胎盤は、活性酸素が蓄積し、酸化ストレスが高い状態であることが知られています。このことにより、一旦は酸化ストレスが妊娠高血圧症候群の原因とされましたが、10年ほど前に行われた研究により、酸化ストレスを低減する薬剤を投与しても病態改善に効果がなく、逆に、胎児の発育を悪化させる可能性も示唆されていました。

 

東北大の研究グループでは、生体内の酸化ストレスが「Nrf2」と呼ばれるタンパク質によって軽減されることを発見しており、今回の研究では、このタンパク質を利用してマウスの胎盤の酸化ストレスレベルを増減させることで、病態や胎盤の血管形成の変化について調査しています。

妊娠高血圧症候群のマウスに対して行われた研究で、酸化ストレスレベルを下げたケースでは母体マウスの死亡率が上がった(20%→40%)一方で、上げたケースでは死亡率は5%以下に抑えられたとのこと。また、酸化ストレスレベルを上げることで、胎盤の血管数も増加、正常なマウスと同程度の血管を形成することも明らかになったそうです。

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今回の研究で、「悪玉」として知られる活性酸素の意外な一面が発見されました。妊娠高血圧症候群は、高度に医療の発達し、妊娠・出産がほぼ安全に行える日本においても、母子の健康を脅かす厄介な疾患です。

今後さらに研究が進むことで、原因の究明や治療方法の開発に繋がるといいですね。

 

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