食べ物以外でも利用される発酵―プラスチックの製造
微生物の働きによって人に役立つ物質を造ることを発酵といいます。発酵によって造られた食品には様々な健康効果があることが知られていますが、食品以外の分野でも期待されており、数多くの研究が行われています。
今回はプラスチックの製造に用いられる発酵技術についてお話しします。
原油由来のプラスチックとその課題
プラスチックは通常原油から作られます。原油はまずナフサ、灯油、軽油、重油などに精製され、そのうちのナフサがさらにエチレン、プロピレン、ベンゼンなどに分解されてプラスチックの原料となります。
軽くて壊れにくく、大量に生産出来ることから、プラスチックは私たちの身の周りで幅広く活用されていますが、使用後の処分、廃棄の段階に大きな問題があります。
まず、プラスチックの元々の原料である原油は化石燃料であるため、燃やすことで二酸化炭素が発生します。二酸化炭素は温室効果ガスの1つであるため、プラスチックを燃やして処理する場合、地球温暖化を進めてしまうというマイナス面があります(※1)。
また、ごみの処分の方法には、燃やすほかに埋めるというものもありますが、プラスチックは分解されにくい素材でもあり、埋め立ててもいつまでも残っているという欠点があります。
処分の問題のほかにも、利用期限の問題もあります。原油が古代の動植物の死骸であることを前提とすれば、原油資源はいずれ枯渇するのが明らかです。製造量に限りがあることを考えれば、原油由来の従来のプラスチックに代わる新しい素材の研究は喫緊の課題であると言えるでしょう。
※1 2015年のパリ協定により、日本は温室効果ガスの排出を2030年には26%削減(2013年度比)する目標を立てています。
発酵によって造られる、地球にやさしいプラスチック
そこで最近では、上記の課題を解決するための「プラスチックを発酵によって造る」研究とその産業利用が進んでいます。
『ポリ乳酸』はそんな新しいプラスチックの中の1つ。ヨーグルトでおなじみの乳酸菌が作る「乳酸」がたくさん繋がってできた素材で、分類としてはポリエステルの1種です。このポリ乳酸を形成する個々の乳酸は、トウモロコシやサトウキビ由来のでんぷん・糖を乳酸発酵させることによって作られています。
ポリ乳酸のプラスチックも燃やすと二酸化炭素を生じますが、石油由来のプラスチックと異なるのは、地上を循環する二酸化炭素の総量を変えないところにあります。
石油由来のプラスチックの場合、燃やすことで、地下で眠っていた二酸化炭素が地上に移動する、すなわち地上の二酸化炭素は増えることになります。一方で、元々地上に存在する植物が由来のプラスチックならば、地上の二酸化炭素の量は変化していないことになります。これはカーボンニュートラルと呼ばれ、環境にも優しいと考えられています。
また、ポリ乳酸は微生物の力によって自然に分解される生分解性プラスチックでもあり、廃棄物処理に有用であると考えられます。
微細藻プラスチック―ミドリムシの活用
ミドリムシは藻類の一種であり、分類学上では動物にも植物にも捉えられるユニークな生物です。ミドリムシには様々な栄養素が含まれており、健康食品やサプリメント等に広く活用されています。「ユーグレナ」という学名でお馴染みの方も多いのではないでしょうか。
最近では、ミドリムシによって造られた微細藻プラスチックの研究(※2)も進んでいます。
衝撃強度には改善の余地があるものの、耐熱性に関しては従来のバイオプラスチック(ポリ乳酸をはじめとする、生物由来の有機性資源を有効利用したプラスチックのこと)よりも優れており、新しい機能をもつプラスチックの開発に繋がる可能性があります。
※2 ミドリムシが生産する多糖類パラミロンにワックスエステルから得られる長鎖脂肪酸、あるいはカシューナッツ由来の油から得られる変性カルダノールが付加することにより造られる。
環境問題やエネルギー問題が深刻化する現代において、非常に重要な研究課題であるといえます。発酵の力で、私たちの暮らしがより豊かになることを願っています。
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