健康に良い「魚の油」、どの魚でも大丈夫?



魚の油は健康に良いとか、魚の油は積極的に取るべきとか、同じ動物性タンパク質の肉に比べると、魚は一般的にヘルシーな食品と考えられています。「魚の油」の話では、必ずと言っていいほどEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の話も出てきますが、これらは油のことなのでしょうか?

また、サンマやサバなどの青魚を多く食べましょう、などとも言われますが、他の魚ではだめなのでしょうか?サンマやサバは美味しい魚ですが、臭みが出やすいので嫌、という人も当然いるはずです。サンマやイワシなどは、骨を取るのが難しくて食べないという話もよく聞きます。

私はイワシの塩焼きが大好きですが、骨が多くて食べにくいのは確かです

 

EPA・DHAは「油」なの?

魚の油というと必ずEPAやDHAについて触れられるので、EPAやDHAがそのまま油のような気がしてきますが、「魚の油」にEPAやDHAという成分が含まれているというのが正確なところです。

私たちが油・脂だと考えている物質の多くは、脂肪酸の分子が3つと、グリセリン(グリセロール)の分子が1つが結合した物質のことで、専門的にはトリアシルグリセロール、トリグリセリドなどと呼ばれています。魚の油でも、肉の油でも、サラダ油でもオリーブオイルでも、油・脂のほとんどは、脂肪酸3分子とグリセリン1分子で出来ています。余談ですが、健康診断の中性脂肪(TG)はトリグリセロールのことです。すなわち、私たちが食事から摂る「油」の多くは中性脂肪でもあります。

油・脂の特徴を決めているのが3分子の脂肪酸の部分です。脂肪酸とは、炭素Cと水素Hでできている1本の長い鎖にヒドロキシ基COOHが結合しているもので、鎖の部分を構成している炭素と水素の数によって種類が決まっています。例えば下の図は、ココナッツオイルやヤシ油に多い油を図式化したものです。ラウリン酸という脂肪酸3つ(茶色の部分)と、グリセリン1つ(黄色の部分)で構成されています。

茶色の線のジグザグの山それぞれが炭素1つを示しており、右端の炭素に水素が3つ、右端1つと左端2つを除く10個の炭素にそれぞれ水素が2つ付いていることを示していて、化学式(示性式)ではCH3(CH2)10COOHと書きます。油脂類はエステル結合という特別な結合をするため、ラウリン酸とグリセリンの間にあるべき水素1つはなくなっています。

EPAやDHAは、ラウリン酸のような脂肪酸の1種。示性式ではCH3CH2(CH=CHCH2)5(CH2)2COOH(EPA)、CH3CH2(CH=CHCH2)6CH2COOH(DHA)と書かれる非常に長い脂肪酸です。ラウリン酸と違って「=」の記号が見えますが、これは二重結合という特別な結合を表しています。二重結合がある脂肪酸は不飽和脂肪酸といって、体に良い油としても知られていますね。

 

EPAとDHAはどう「良い」の?

食品として食べられた物は、体の中で酵素によって分解されてから様々な用途に使われます。魚の油もグリセリンとの結合を分解され、体の中ではEPAやDHAといった脂肪酸の形になって、健康効果を発揮します。

EPAやDHAが健康に良いことは広く知られていますが、両者には異なる働きがあることが示唆されており、EPA(エイコサペンタエン酸)の方がより研究が進んでいます。健康効果には様々なものが知られていますが、いわゆる「血液をサラサラにする」効果は有名です。血液がサラサラになるというのは、EPAの持ついくつかの作用をまとめて簡単に言い換えたもので、より具体的には、血栓を作りにくくする作用、血中の中性脂肪値を下げる作用、赤血球を柔軟にする作用などがそれに当たります。

怪我をしたときに血が止まるのは、血液中の「血小板」が出血した部分に集まって固まるためですが、これが血管内で起こると、血栓となって血管を詰まらせる原因にもなります。EPAにはこの血小板が集まって固まる性質を抑える働きがあります。

また、血中の中性脂肪値が血液中で固まると、血液の粘度が上がり、血管の細い部分を通りにくくなります。同じく血液が通りにくくなる要因としては、赤血球が固くなって血管に合わせて形を変えにくくなることも挙げられます。EPAはこのどちらに対しても改善効果があります。

EPAについては、高純度で抽出する技術も確立されており、純度の高いものは、循環器系の疾患において医薬品としても利用されています。

 

一方で、DHAの方はEPAと異なり、高純度で抽出する技術が未確立であるため、その効果については研究の途上にあります。脳に豊富に存在する脂肪酸であり、脳や神経の発達に何らかの役割を持っていることが考えられています。乳幼児や子供など、脳の成長段階において重要なことはわかっていますが、成人に対してはどのように作用しているのか、はっきりしたことはわかっていません。

また、EPAは食品から摂取すると血中濃度が如実に上昇しますが、DHAは食品から摂取しても血中の量は一定でほぼ変わりません。DHAは体内でEPAをもとに作ることができるため、EPA量が十分であればDHAの不足を心配する必要はほぼありません。

 

EPA・DHAが含まれるのは青魚だけ?

EPA・DHAは、青魚に多く含まれると言われています。青魚とは、背中が青い魚をまとめてそう呼んでいるもので、イワシ、サンマ、サバの仲間を指すのが一般的です。これらの魚は鮮度が低下しやすいため、臭いがが苦手という方も珍しくありません。青魚がいくら体に良いと言っても、好きじゃないものを積極的に食べるのも難しい。ほかの魚で、EPAやDHAを多く含む魚にはどのようなものがあるでしょうか。DHAは食品から摂取しても血中濃度にほぼ変化がないものであるため、EPA量の多い魚について見てみましょう。(七訂食品成分表2018より。数値は全て内臓、骨、ひれなどを除いた可食部100gあたりの含有量です。)

まずは多いと言われるイワシ、サンマ、サバから。多いと言われるだけあって、これらの魚に含まれるEPA量は圧倒的です。

  • イワシ(マイワシ・焼き) 790mg
  • サンマ(焼き)1,300mg
  • サバ(タイセイヨウサバの塩蔵品・塩さば)1300mg

イワシはマイワシのほかにもうるめイワシ、カタクチイワシなどが店頭に並ぶことが多いですが、この2種もマイワシ同様、EPAを多く含みます。一方、塩さば(タイセイヨウサバ)のほかに、マサバとゴマサバという種類が流通しています。マサバのEPA含有量はタイセイヨウサバと同様に豊富ですが、ゴマサバの方は290mgと少なめとなっています。

次に上記以外でEPA含有量が多い魚について。EPAは魚の油を構成する成分であるため、やはり脂の乗りがよい魚に多く含まれています。可食部に500mg以上含む物を調べてみました。

  • アジ(開き干し・焼き)560mg
  • あなご(蒸し)760mg
  • 子持ちがれい(水煮)760mg
  • きちじ(生)1,300mg
  • 鮭(しろさけの塩蔵品・塩ざけ)600mg
  • サーモントラウト(たいせいようさけ・焼き)1,000mg
  • ししゃも(生干し・焼き)650mg
  • 鯛(養殖まだい・焼き)670mg
  • たちうお(生)970mg
  • にしん(身欠きにしん)760mg
  • はたはた(生干し)970mg
  • ぶり(焼き)1,000mg
  • ほっけ(ひらき干し・焼き)1,100mg
  • まぐろ(くろまぐろ脂身・生)1,400mg (みなみまぐろ脂身・生)

きちじ、鯛、はたはた、まぐろ(トロ)などは高価だったり流通量が少なかったりしますが、その他の魚は気軽に取り入れることが出来そうです。青魚が苦手でも、EPA豊富な魚もそれなりにあることがわかりました。

厚労省では、EPA/DHAを1日1g以上摂ることが推奨されています。EPAが多いとされるサンマでも、100gに含む量は1.3gですので、毎日の食事のうち1回は魚を主菜として、意識して食べると良いのではないでしょうか。

 

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