乳酸発酵甘酒開発のチャレンジ



ライターの岡野(おかの)です。

ただいま、乳酸発酵甘酒の開発にチャレンジしています。

乳酸発酵甘酒とは何か、開発着手の経緯や、なぜ酒造メーカーなのに乳酸菌を使った開発を行っているのか、将来展望などそのあたりの事情を綴りたいと思います。

 

麹甘酒と乳酸菌を組み合わせた乳酸発酵甘酒の開発

近年、塩麹や甘酒など麹に着目されることが増えました。麹は酒や味噌、醤油など日本の生活に密着しており、日本人の味覚になじみがあることから受け入れられやすいのかもしれません。

私自身は、麹ではなく乳酸菌を使った研究開発を行っていたのですが、ある時、甘酒の派生商品として乳酸発酵させた甘酒、乳酸発酵甘酒というものがあることを知りました。

 

乳酸発酵甘酒とは甘酒を乳酸菌でもう一度発酵させた飲料です。つまり、お米を麹菌で発酵させた飲料である麹甘酒を更に乳酸菌で発酵させたダブル発酵のノンアルコール飲料です。

いくつかの乳酸発酵甘酒が市販されていますが、各製品によって味わいが全く違います。それもそのはずで、麹の違いに加えて乳酸菌による違いがあるため製造元によって味に個性があるのです。

 

当社は焼酎や日本酒を製造していますので麹の扱いに長けた先輩方がたくさんいます。一方で、私自身は乳酸菌を扱った仕事をしていますので、麹甘酒に適した乳酸菌を見つけ出すことに取り組みました。

乳酸菌のコロニー

乳酸菌のコロニー

 

 

乳酸菌研究は焼酎副産物の有効利用研究が発端

ところで、なぜ乳酸菌を扱った仕事をしているのか、酒造りに乳酸菌はタブーではないかと思った方もいるかもしれません。

日本酒の製法に生酛造りと呼ばれる乳酸菌を活用する方法もありますが、一方で腐造や火落ちと呼ばれる酒造りに悪影響を及ぼす乳酸菌もいるため、特に日本酒の醸造場では乳酸菌などの微生物の持込は基本的には厳禁です。

 

焼酎を製造すると副産物として蒸留残渣が発生します。日本酒でいうと酒粕に相当するものですが、焼酎蒸留残渣の場合、液体分が多く腐敗しやすいために扱いが難しいという課題があります。

そこで、この副産物を有効利用する研究を当社は長年続けてきています。

現在ではほとんど産廃処理することなく様々な形で有効利用が可能になっているのですが、その研究の中で焼酎副産物が乳酸菌培養の培地として非常に適性があるということが分かり、当社では乳酸菌を使った研究を以前より行ってきました。実際に、焼酎副産物を乳酸菌で発酵させて機能性食品素材GABAを製造するという事業も行っています。

そのため当社では、研究開発を目的に様々なところから乳酸菌株を集めてストックしています。

液体培養中の乳酸菌

液体培養中の乳酸菌

 

 

麹甘酒に適した乳酸菌とは何か

麹菌は、様々な酵素を創り出すことで、デンプンを糖に分解して甘味を作り、タンパク質をアミノ酸に分解して、旨味と、香りの素を作ります。

麹菌の菌株ごとに、甘味を作り出す能力や、アミノ酸を作り出す能力は異なります。乳酸菌は糖の一部を乳酸に変えて酸味を作り、乳酸発酵の香りを作ります。乳酸発酵甘酒はこれら味と香りのバランスをとることが大切になってきます。

 

また、乳酸菌といっても様々な種類の菌株がいます。ヨーグルト、チーズ、漬物などそれぞれ使われる乳酸菌は異なります。

というのも、乳酸菌は栄養要求性が複雑であるからです。簡単に言うと、乳酸菌によって必要な栄養や環境が違うのでヨーグルトでよく増殖する乳酸菌と漬物でよく増殖する乳酸菌の種類は異なるのです。

 

そこで、乳酸発酵甘酒の開発を目標として、麹甘酒を美味しく乳酸発酵させる乳酸菌を選んできました。様々な乳酸菌を試したのですが中には不快な香りや美味しくない乳酸菌もいました。

ヨーグルト用やチーズ用の乳酸菌、当社にストックしていた乳酸菌を試した結果、当社がある大分県宇佐市で栽培された大麦から分離した乳酸菌株が美味しい乳酸発酵甘酒を作ることが分かりました。この菌株は、いわゆる植物性乳酸菌と言われる漬物などからよく分離される乳酸菌です。

乳酸発酵甘酒の試作品

乳酸発酵甘酒の試作品

 

 

乳酸発酵甘酒の目指すところ

甘酒自体は奈良時代の日本書紀に記述がある歴史がある飲料ですが、乳酸発酵甘酒は比較的新しいジャンルの飲料です。推測ですが、殺菌技術や乳酸菌の培養技術がなかったため、自然界に存在する酵母などの混入によりアルコール発酵などが起こり、一定品質の乳酸発酵甘酒を作ることができなかったのではないかと思います。

 

現在は、微生物制御の技術が発達し、特定の乳酸菌だけで発酵できるようになったので乳酸発酵甘酒という新しいジャンルの発酵飲料を作ることができるようになりました。

乳酸発酵甘酒のもともとの原料はお米です。そのお米を、麹と乳酸菌で発酵させるだけで甘酸っぱい飲料になります。発酵の力でこんなに味が変わるという発酵の魅力を感じてもらうきっかけになればと思っています。

乳酸菌の電子顕微鏡写真

乳酸菌の電子顕微鏡写真

 

 

また、近年は甘酒の機能性が着目されています。一般的に疲労回復や腸内環境改善などが言われていますが、今後更に機能性研究が進められていくと思います。

乳酸発酵甘酒は甘酒の機能性に加えて乳酸菌の機能性が加わっていることが期待できます。試作した乳酸発酵甘酒にはおよそ1億個/mLの乳酸菌が含まれていました。つまり、100mL飲むと100億個の乳酸菌が摂取できます。また、近年は乳酸菌の菌体だけでなくて、その乳酸菌の代謝産物にも体に良い働きがあると着目されています。麹菌とその代謝物、乳酸菌とその代謝物をまるごとすべて体に取り入れることのできる乳酸発酵甘酒は、様々な機能性が期待できるので、機能性研究に着手することが今後の私の課題です。将来的に麹と乳酸菌のダブル発酵飲料、乳酸発酵甘酒が健康飲料として日々の生活に定着することを目標に、開発にチャレンジしています。

 

 

※この記事は、麹を識る、愉しむサイト「KOJI SPIRIT」https://kojispirit.com/にも掲載されています。KOJI SPIRITでは、麦焼酎「いいちこ」の三和酒類の蔵人たちが“麹文化の酒の三和酒類”を目指すその一人一人の想いを発信しています。

 

※本記事でご紹介した乳酸発酵甘酒は開発中の商品であり、販売されておりませんのであしからずご了承ください(2020年3月現在)。

 

 


ライター紹介

岡野(おかの)

乳酸菌など有用な微生物の研究担当。
社内に眠る宝の山を検索中。

 

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