発酵食品作りを支える小さな生き物



発酵食品に特有の、元の食品にはない香りや味は、元の食品に含まれる成分が分解されてできたものです。

元の食品の様々な成分を分解しているのは、私たちの目には見えないたくさんの微生物ですが、どんな微生物がついても発酵食品ができるというわけではありません。

発酵と腐敗が仕組みとしては同じものであることはよく知られています。分解の結果、食品が美味しくなったり栄養価が高まったりするような場合は発酵、そうでなければ腐敗になります。食品が発酵するか腐敗するかは、食品につく微生物の種類によって変わってきます。

 

 

発酵や腐敗を担う微生物は、菌類と細菌類

目に見えないくらいの小さな生き物を、まとめて微生物と言います。発酵や腐敗などの有機物の分解を行うのは、微生物のうちの菌類や細菌類です。菌類とは、酵母、カビ、きのこなど、細菌類とは、乳酸菌や大腸菌などがそれにあたります。

 

菌類と細菌類は、名前は似ていますが、細胞の構造の点で全く別の生き物です。

生き物はすべて、細胞の中に、その生き物の設計図であるDNAというひも状の物体を持っています。菌類のDNAは「核」という袋に包まれた状態で、細胞の中に存在しています。細胞の中に核があり、核の中にDNAが入っているという構造は、私たち人間をはじめとした、多くの動植物と同じです。

一方で、細菌類の細胞の中には核がありません。細菌類のDNAは、細胞の中に直接存在しています。

 

また、菌類と細菌類では、細胞の大きさも異なります。細胞の大きさは生き物によって様々ですが、一般に菌類の細胞の方が細菌類の細胞より大きく、例えば菌類の中でも酵母の細胞は小さめですが、一般的な細菌類の10倍程度の大きさを持っています。

 

 

酵母の発酵

菌類とは、酵母、カビ、きのこの大きく3種類に分けるられますが、この中で発酵を行うのは酵母とカビの一部です。

 

まず、酵母とは、菌類の中でも細胞1つだけで存在している菌類のことで、非常に多くの種類が知られています。

酵母は、食品に含まれる糖分を分解してアルコールを作り出すことができる生き物で、酒造りには欠かせません。

酵母は地球上のあらゆる場所に存在していて、ブドウの表面などにも、自然の酵母が付いています。ブドウを丸ごと潰しておいておくだけでも、自然の酵母がブドウの糖分を分解してワインが出来上がります。(自分お酒を造ることは法律で禁じられていますので、勝手に作ることはできませんが)

 

 

カビの発酵

ブドウの場合は果皮につく自然の酵母だけでワインを作ることができますが、焼酎や日本酒では、原料の麦や米などに糖が含まれませんので、酵母を付けてもアルコール発酵は起こりません。

麦や米を酒に変えるには、麦や米のデンプンを糖に分解する工程が必要になってきます。このデンプンから糖への分解時に利用されるのがカビによる発酵です。

米にコウジカビを繁殖させた「麹」

他にも、牛乳を発酵させてチーズを作ったり、カツオから水分を取ってかつお節を作ったりするのにも、カビを用いた発酵技術が使われています。

 

 

細菌の発酵

食中毒の原因菌のイメージが強烈な細菌類ですが、人体に有害でないものは発酵食品造りに利用されます。

 

例えば納豆も細菌を使った発酵食品の1つ。

納豆を作っているのは、枯草菌の1種である納豆菌という細菌です。枯草菌という名称が示すように、枯草菌は枯れた草に自然についている細菌で、稲わらなどによく見られます。茹でた大豆を納豆菌がついた稲わらで包むことで、大豆に納豆菌が繁殖して発酵し、納豆が出来上がります。

現在は人工的に納豆菌を付けて製造していますが、稲わらで包んだ昔ながらの納豆を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

他には、乳酸菌を用いた発酵技術も幅広く利用されています。

 

 


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