農業資材としての焼酎粕機能性の解明
近年、持続可能な環境保全型農業生産へのニーズが高まっており、地域資源循環の活用が求められています。
今回は、環境保全型農業の実現に向けた三和酒類の研究活動についてご紹介します。
副産物の有効活用
三和酒類では以前より、地域資源循環を目指した環境活動に取り組んできました。
麦焼酎を製造する際には、焼酎粕と呼ばれる副産物が大量に発生しますが、日本酒の副産物としてお馴染みの「酒粕」と異なり、焼酎粕は茶色の味噌汁状の液体です。焼酎粕は水分量が多いことから、そのままでの使用は難しく、三和酒類では焼酎粕を濃縮加工することで、肥料や飼料の原料として活用しています。
焼酎粕濃縮加工液は肥料としての有効性が明らかにされており、農業現場での活用が広がっています。

大麦発酵液(焼酎粕)
トマト青枯病抑制効果の検討
焼酎粕には原料大麦や麹、酵母に由来する様々な有効成分が含まれています。
これらの成分は農作物や土壌微生物に様々な影響を及ぼす可能性が想定されますが、これまで明らかにされていませんでした。焼酎粕濃縮加工液の効果が明らかになれば、農業における利用可能性がさらに広がるものと期待されます。
そこで、三和酒類は九州大学農学部の古屋教授らと連携し、トマト青枯病抑制効果について研究を行いました。
実験に用いた材料
供試菌株:ナス科植物青枯病菌Ralstonia solanacearum
生物的防除資材Pseudomonas protegens CHA0
供試作物:トマト(品種「世界一」)
供試資材:大麦焼酎粕濃縮加工液(TS50、三和酒類)
実験結果
- 焼酎粕濃縮加工液(TS50)を生物的防除資材である protegens CHA0と併用したところ、CHA0の生物的防除効果を阻害せず、相加的な防除効果が確認されました。
- 変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)解析の結果、焼酎粕濃縮加工液の施用は土壌細菌相の変化を引き起こすことが確認されました。
- トマト苗の地上部に焼酎粕濃縮加工液の希釈液を噴霧処理したところ、地上部においてはPR-1※およびPR-2b遺伝子の発現量が増大しました。また、地下部においては、PR-6、PR-2b、およびERF4遺伝子の発現量が増大しました。
※PR-1、PR-2b、PR-6、ERF4 遺伝子は、植物の抵抗性反応に関与する抵抗性関連遺伝子です
本研究により、焼酎粕濃縮加工液は土壌微生物相の変化を誘導することが実証されました。土壌微生物相の変化は、植物に様々な影響を及ぼすものと推察されることから、焼酎粕は発病抑制以外にも何らかの効果を発揮している可能性が期待されます。今後、さらなる解析が望まれます。
また、焼酎粕濃縮加工液を生物的防除素材と併用することで、防除効果が高まる可能性が示唆されました。防除効果のより高い土着の生物的防除素材を選抜することで、実用的な防除効果が期待できる可能性があります。
大学との共同研究により、焼酎粕の新たな知見を得ることができました。
三和酒類では今後も引き続き、焼酎粕の有効活用に向けた研究活動を行っていきます。
※本記事で紹介した研究の詳細については、下記論文をご参照ください。
満原ら(2018)大麦焼酎粕加工液によるトマト青枯病抑制効果の検討.
九病虫研会報64:26-32
ライター紹介
博士(農学)
「発酵大麦エキス」の農業利用を研究中。
食品用途以外での可能性を広げます。
こちらの記事もおすすめ
焼酎粕の農業利用
「コーヒー粕」が青枯病を抑制!新たな病害防除技術の開発へ
乳酸菌のフィールドは腸内だけではない?乳酸菌がつくる機能性物質